糖尿病との付き合い方
            (専門医の立場から)
                      日本内科学会認定内科専門医
                      日本糖尿病学会  認定医
                      
                      
1 始めに少し恐い話から
 現在、わが国の糖尿病人口は500万人とも600万人とも唱われており、40才以上
の人々の10人に一人は糖尿病であると考えられています。もはや、ひとごとでは済まさ
れないところにまできているのです。そして、糖尿病の恐ろしさは、その合併症にありま
す。合併症の基本は血管病変と呼ばれるもので、大血管から毛細血管にまで至る血管の劣
化によるものです。その他にも、高血糖のために生ずる組織蛋白の糖化も事態を悪化させ
ています。早い話が、糖尿病のために老化が早くから進んでしまっているのです。そのた
め、糖尿病の患者さんは一般の人に比べ、男性では約10年、女性では約15年寿命が短
いという統計結果が得られています(1981年〜1990年)。また、わが国における
失明原因の第1位を、透析導入においては第2位を糖尿病によるものが占めているのです。
もう少し恐い話を続けますが、糖尿病は心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳血管性痴呆、各
種の感染症、さらには悪性腫瘍の発生にまで大きな影響を与えていることが証明されてい
ます。まさに、風邪は万病のもと、糖尿病は千万病のもとと言えるでしょう。
 現在糖尿病と言われ、通院される患者さんの多くは、何の自覚症状も感じてはいらっし
らないのではないでしょうか。そうとうに進行するまでは自分に判らないところが糖尿病
の恐ろしさでもあります。そのために、どれほど多くの方々が治療を中止.され、数年後に
深く後悔されたことでしょう。
2 でも、本当に恐いものなのでしょうか
 糖尿病に罹り、生活に支障が生ずるまでに合併症が進行するには、どれくらいのコント
ロールで、どれくらいの年月が懸かるかは人によって異なるのです。年令、性別、妊娠の
有無、高血圧や高脂血症、肥満、運動量、そしてなにより持って生まれた先天的な体賢が
全てを左右するのです。ですから、全ての糖尿病患者さんが一律にコントロールされると
いうのもナンセンスといえます。小学校のころからテストでは、満点を敢ることが理想で
した。わかっちやいるけどやりきれない。というのが、殆どだったのではないでしょうか。
理想は理想として、たいへん良くできました、から、もう少し頑張りましょう、まで、
少しでも前進し、合併症の進行を遅らせるのが現実的ではないでしょうか。その中でも、
特に注意しなくてはならないのは、妊娠予定から妊娠中の女性、そして、不帽こも体質的
に合併症が進みやすい患者さんの場合と、長年のコントロール不足からついに網膜症、何
症、神経障害、四肢末梢の壊死が危険域に達してしまった患者さんの場合なのです。そこ
まで至っていない場合は、QOL(quality of lげe)生活の質、を咀視した治療が必要で
はないのでしょうか。しかしながら、良好なコントロールでいたほうが合併症の進行が遅
いのは、いうまでもありません。
3 では、あなたに必要な治療はどのくらいなのでしょうか
 よほどの理想主義者の医師でない限りは、一度やニ度、否、数か月程度の診療期間では
判断できません。糖尿病自体が数多くの要因から成り立つ疾患であるうえ、患者さん個人
個人の背負っているものがまったく異なることからもお解りなように、とても難しい問題
を含んでいるのです。そこのところにあえて、「断」を下゙すのが我々主治医と、患者さん
ご自身なのです。そのために必要な資料として、血糖値、グリコヘモグロビンなどの血液
検査、尿中微量アルブミン、尿蛋白などの尿検査、眼底所見を得るための眼科診察、血ル
、心電図検査、胸部レントゲン写真、下肢知覚障害、各種反射、下肢血流、等の無数の検
査があるのです。いずれにしても、患者さんの顔をみているだけでは何も判断できないの
です。もちろん、士分なお話を聞かせてもらうことは最も人切なことです。
4 この時代にあって、何か良い薬はないのでしょうか
 残念ながら、飲んでいさえすれば全て解決できる薬は末だにありません、。全ての基本は
、食事療法と運動を含めた日々の生活なのです。しかしながら、治療に役立つ新たな薬剤
はいくらか登場しつつあります。代表的なものとして、アルドーズ還元酵素阻害剤と呼ば
れる合併症に対し予防的にも働く薬(保健洽療薬にはなっていますが)や、aゲルlly
ダーゼ阻害剤と呼ぱれブドウ糖の吸収を遅らせる薬、など。その他にも腎症の発症を押さ
えることがわかったアンギオテンシン転換酵素阻害薬もその範疇に入れられます。また、
インスリンの働きを改善する薬剤や、新しいタイプのSU剤なども近いうちに発売される
予定です。
5 では、これからどうしたら良いのでしょうか
 糖尿病とは、これからも長い付き合いになるのです。あせらず、急がず、気長にやって
いきましょう。私がよく申すように「ぼちぼちでいきましょう。」がいちぱんです。その
かわり、主治医が真剣な顔になったときには、どうぞご協力ください。診療所とは縁を切
らず、気長に通院をお薦めします。

糖 尿 病 その2
                   日本内科学会 認定内科専門医
                   日本糖尿病学会    専門医
                   青山内科医院 院長
                   医学博士 青山宏大

| 糖尿病とはどんな病気か
  人間の活動に必要なエネルギー源として、最も重要なものに『ブドウ糖』
 があります。その、『ブドウ糖』を細胞に取り込むのに欠かせないホルモン
 がインスリンです。
  インスリンの量が少なかったり、効き目が不十分なときに血糖(血の中に
 含まれるブドウ糖の量)は高くなり、『糖尿病』となります。

|| 糖尿病はなぜ治療すべきか
  糖尿病にかかっても、中程度まではほとんど自覚症状はありません。
 しかし、年単位の長い時間をかけ『合併症』が進行します。血管病変を中心
 とした、眼(網膜症)、腎臓、神経の障害を3大合併症と呼ひます。他にも
 動脈硬化(心筋梗塞、脳梗塞、足の壊疸)、免疫能の低下(癌、感染症)、
 白内障、胎児への影響など数限りない障害の原因になります。

||| 糖尿病はどんな人が罹りやすいか
  遺伝素因、肥満、運動不足、ストレスの持続、加齢、過食過飲等がありま
 す。その他に、妊娠、他の内分泌疾患、各種薬剤(ステロイド、利尿剤、ホ
 ルモン剤)によっても、糖尿病状態は惹起されます。

W 糖尿病の症状
 糖尿病症状は、高血糖に伴う急性症状と、合併症に起因する慢性症状に分
けられます。
@急性症状:最も重大なものに、昏睡があります。ケトアシドーシスと呼
     ばれ、身体が酸性になってしまったためのものと、高浸透圧性と
     言われる、血が濃くなりすぎたものとがあります。そのほかに、
     口渇、多飲、多尿、急激な体重減少なども、糖尿病の症状です。
A慢性症状:網膜症に伴う視力低下(失明)、腎症による尿毒症(透析)。
     神経障害としての疼痛、痺れ、随伴した下肢の壊死(足の切断)
     が、3大合併症によるものです。そのほかに、脳梗塞、心筋梗塞
     白内障、感染症、悪性腫瘍、陰萎、などあらゆる老化現象の早期
     発現がみられます。

V 糖尿病の治療
 @食事療法:すべての患者さんに適応されます。(運動用法、薬物療法には
      禁忌事項があります。)
      一般的には標準体重(Kg)×25〜3 5 Kcal/日で計算されますが
      妊婦。授乳中の女性、小児、腎不全、肝硬変などでは別計算しま
      す。また、標準体重の計算は骨格、筋肉のつき方、年令、活動性
      基礎代謝などは完全に無視しています。まだまだ検討の余地があ
      ります。(なお、標準体重は 身長(m)×身長(m)×22)
 A運動療法:中等度以上の合併症、呼吸器循環器疾患の愚老さんは注意を要
します。過度な運動により、合併症を悪化させることがあります
合併症の程度、年令、肥満度、ライフスタイル、などを考慮した
指導が必要です。また、人間の身体は恐ろしいくらいの雀エネ設
計です。運動だけで体重を減らすことは、極めて困難といえます
  例えぱ、体重60Kgの男性が10分間ジョギングをした場合。だ
いたい1単位(80Kcal)のエネルギーを消費します。体脂肪
I Kgで9000Kcalありますから、単純計算しますと、体重I Kg
減らすためには19時間弱のジョギングが必要です。(実際には
これほど簡単にはいきません。念のため。)
 しかし、万歩計をつけ毎日できるかぎり自分の足で歩くことは
だれにでも出来、最も簡単で、長続きする運動といえます。
B薬物療法:飲み薬と注射があります。飲み薬には、血糖降下作用を持つ
SU剤、ビグアナイド剤、インスリン作用増強剤、超速効性血糖
降下薬、イ、ンスリン作用増強系血糖降下薬、消化管からの吸収を
遅らせるaGI系、などがあります。
 注射はインスリンです.その中には、速効性から、中間型.持
続性さらには.混合したもの.最近では超速効性インスリンも実
用化されています。近い将来、超持続型インスリン、吸入型イン
スリンも実用化される見込みです。
 しかしながら、血糖が下がりすきれば低血糖に陥り死亡するこ
とも十分ありえます。慢性高血糖で死ぬには30年くらいはかか
りますが、低血糖では数十分で死に至ります。低血糖には要注意
です。
Y 低血糖
  血糖値50mg/dl以下の場合を低血糖と呼びますが、低血糖症状はそれと
 は別に出現し得ます。冷汗、震え、強い空腹感、頭痛、気分の悪さ、吐気、
 などが代表的な症状ですが何となく変だ、ということもあります。低血糖は
 危険な兆候ですから、速やかに糖質の補給をする必要があります。αグルコ
 シダーゼ阻害剤を併用しているときだけは、ブドウ糖そのものの摂取が必要
 です。しかしながら、ブドウ糖以外の糖質でも十分に血糖上昇は得られるた
 め、手近なものを伺でも摂取することが大切です。
  もし低血糖が出現しましたなら、薬の減量が必要かどうか主治医に相談す
 べきです。過度の運動、不食、薬剤の相互作用、リバウンド、他の疾患の存
 在、糖毒性の消失、処方ミスなどが考えれるからです。
Y| まとめ
  かなり乱暴に。一般論を書き連ねてまいりましたが、糖尿病には重症から
 軽症までいろいろあります。若年か熟年か、妊娠の予定のあるなし。他の疾
 患の合併の有無、高血糖に強い体質か否か、などによって実際的なコントロ
 ールの目標は異なってきます。その人、それぞれに必要なコントロールを
 確定して、少しでもそれに近付けることが必要といえます。